業務で使う10台の移行を想定

 自動車部品の加工製造を営むX社では、現在、15台のパソコンと3台のサーバー、2台のプリンターを導入しており、そのうちの10台のパソコンがWindows XPです。
 パソコンの主な用途は、メールや文書作成などの日常業務に加え、インターネットを介した取引先からの注文の管理、注文と在庫の状況に応じて生産計画を立てる生産管理などです。これらのために、大手メーカーの基幹業務用ソフトウェアを導入しています。
●X社で利用しているパソコン

ソフトウェアやトレーニングの費用も見積もる

 X社の「移行のコスト」を試算してみましょう。Windows XPパソコン10台を新機種に入れ換えるにあたり、サーバーは現在のものがそのまま使えますが、プリンターは機種が古いため、買い換えが必要になります。また、基幹業務用ソフトウェアのバージョンアップも必要で、これが80万円になることがわかりました。同時に、最新のWindows環境での動作検証に、多くの作業時間を見積もっています。
 新しいパソコンの設置やデータの移行には、それほど手間はかからない見込みです。しかし、移行直後は新しいパソコンに慣れるまで残業が発生すると考えられるのと、新しいWindowsに社員が慣れるまでのトレーニングに時間がかかるため、「目に見えないコスト」として見積もりました。これらにより、「移行のコスト」の合計は183万7,500円と試算されました。
●X社の「移行のコスト」試算

マルウェア感染から起こる深刻な事態

 今度は、Windows XPを搭載したパソコンを使い続けた結果、不幸にもトラブルが発生してしまったときのシナリオを考えてみましょう。ここでは、かなり深刻なケースを想定します。
 ある日、Windows XPパソコンの1 台がマルウェアに感染。パソコンの動作に影響をおよぼす悪質なマルウェアで、LANを通じて社内のWindows XPパソコンすべてが感染してしまいます。 これにより基幹業務用ソフトウェアが利用できず、受注処理ができなくなったため、営業担当が取引先の工場に電話し、担当者に謝罪するとともに、注文を確認します。しかし、先方の担当者もすぐに対応できず、返答は数時間後とのこと。その間に、過去の実績から見込みで生産しようとしますが、基幹業務用ソフトウェアが使えないので工場に正確な指示を出せず、業務が停止してしまいます。

取引機会を失い、経済的損失が発生

 原因がWindows XPの脆弱性を突くマルウェアに感染したことと判明したため、社内にある10のWindows XPパソコンをLANから切断しました。しかし、すぐにはパソコンを復旧できず、業務が再開できません。
 取引先に連絡し、現在ある在庫だけでも納品する提案をしましたが、すでに別の業者から部品を調達することになったとのこと。ここで注文を失うことによる経済的損失が発生します。
 業務を再開するため、基幹業務用ソフトウェアを動かすパソコンの復旧を急ぎます。幸いマルウェアはセキュリティソフトメーカーがWebページで配布しているツールによって駆除することができました。しかし、重要なデータの一部が破壊されていたり、中にはどうしても起動しないパソコンがあることが判明しました。

Windows XPが禁止され、緊急移行することに

 やむを得ずパソコンの交換を検討している最中に、取引先から通達があり、業務にWindows XPパソコンを利用することを禁止されてしまいました。そのため、Windows XPパソコンをすべて最新のパソコンに入れ換えることにします。
 しかし、急な注文となったため業者に在庫がなく、割高なパソコンしか選べませんでした。また、最新のWindowsに対応するため基幹業務用のソフトウェアのバージョンアップも必要で、納期が3日かかることが判明。結果的に3日間、業務は完全に停止することになり、経済的損失が拡大します。
 その3日の間に、社員は残業を続けて新しいパソコンの設置およびデータの移行を行ない、パソコンの入れ換えが完了します。しかし、思わぬ人的損失も発生することになってしまいました。

パソコンは復旧できても、信用の回復は難しい

 なんとかパソコンを復旧でき、長年の付き合いがあったおかげで、取引先に発注を再開してもらえることになりました。
 しかし、3日間の業務停止による被害は甚大なうえ、業務停止中にライバル企業が部品を納品したことで、X社への発注量は以前より減らされ、以後の価格交渉でも不利な立場に立たせられる結果となりました。
 トラブルから数週間が経っても、経営者は関係各所への謝罪に奔走しています。大きな社会的損失は、簡単には取り戻すことができません。
● X 社の「移行しないコスト」試算

間接的に発生する損失に苦しむことになる

 このシナリオのポイントは、業務停止による経済的損失があったことと、ライバル企業の参入を許したことにより、今後も売上減が見込まれることです。この2点だけで、膨大な損失が発生することになります。
 さらに、取引先からWindows XPの利用を制限されたことも重大なダメージです。通常のマルウェアトラブルであれば、駆除して復旧することで業務を再開できますが、Windows XPの脆弱性が原因である場合は、駆除しても再び同じ被害が発生する可能性が高くなります。大手企業を中心に、取引先に安全でないWindows XPの利用を明確に制限する例も増えています。
 すると、無理をしてでもパソコンの移行をしなければなりません。その場合は通常の移行と異なり、このシナリオのように割高な製品を買うことになる場合もあります。また、今回の試算には加えていませんが、検証不足によるトラブルが発生したり、混乱が大きくなって業務への影響が増えたりする可能性もあります。このようなことから、通常の移行とは比較にならないほどコストがかかることも覚悟しておくべきでしょう。

[ヒント]パソコン需要の急伸による損失拡大の可能性も

2014年は、Windows XPのサポート終了によって、パソコンの需要が急激に伸びると言われています。このため、急にパソコンの移行が必要になっても入手が困難となるケースが考えられます。場合によっては、業務停止の期間が延びたり、高額な機種を購入せざるを得なくなる可能性もあります。

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