iPadを一足先に使ってみた

アメリカで1月に発表、そして4月に発売されてから、iPadの人気ぶりはテレビや新聞などの大手メディアでも盛んに報道されています。しかし正直なところ、筆者は「気になる存在だけど、自分が持つイメージではないかな」と考えていました。

「iPhoneを使っているから、それ事足りるのでは?」「Android搭載のタブレットデバイスを待ったほうがよいのでは?」などと、いろいろと理由をつけて静観していたのです。

ところがある日、訪米しているライター仲間を経由して、予期せずiPad(Wi-Fiモデル)をしばらく使用する機会がありました。iPadとの生活を振り返り、ここでiPadの魅力と今後への期待についてまとめてみたいと思います。


筆者が使用した海外版iPad。手持ちのデバイスと並べてみると、そのサイズ感がよくわかります

歓声と困惑で迎えられたデバイス

「でかいiPod Touch」と揶揄(やゆ)されることもあるiPad。メディアでは「ネットブックを駆逐する」とも、「究極の電子書籍リーダー」とも言われたりします。果たしてコイツは何者なのか? 実際に使ってみるまで、筆者はそのような印象を持っていました。

1月27日に行われた、アップルのCEO(最高経営責任者)スティーブ・ジョブズ氏によるiPadの発表を、筆者は中継で見ていました。アップルの新製品発表と言えば、いつもは熱狂的な歓声一色で迎えられることがほとんどです。

「タッチパネル式のタブレット型デバイスが発表される」という事前の予想もあり、世の中の期待も相当に高かったのですが......いざiPadが登場したときの会場の反応は、何とも不思議なものだったのが思い出されます。「このデバイスをどうとらえて良いのか、瞬時にはわからない」というのが、見ていた人々の正直な感想ではないでしょうか?

筆者も含め、多くの人々は「Mac OS Xを搭載したタブレット型のMacBook」を予想していたからというのが、そのような反応の大きな原因なのかもしれません。また、iPadの用途が「ネットブックを置き換えるもの」「電子書籍リーダー」「ゲーム機」などと多岐にわたっていることも、混乱を招く一因になっていそうです。

「何にでも使える商品は市場に理解されにくい」と、マーケティングの世界ではよく言われますが、iPadもまさにそれでした。

この新しいデバイスは、何を中心にしてとらえればよいのか?

迷いながらの使用を通じて、筆者はiPadを「受動的」な側面で見るか、「能動的」な側面で見るかで、大きく印象が異なることに気付きました。受動的とは、さまざまなコンテンツを受け身で楽しむような使い方、能動的とは、ユーザーから働きかけて何かを生み出していくような使い方を指します。

もちろん、パソコンなど従来のデバイスでもこの両方の側面があるのですが、iPadは特に受動的な側面で、これまでにない体験を提供していると言えます。これから2回にわたってiPadのレポートをお届けしますが、前編では、まずこの受動的な側面での使い心地についてまとめてみたいと思います。

第一印象は「大きくて、重いです......」

初めてiPadを持った正直な印象は、「重い」。

ネット上では「小さめのフライパンレベル」などと言われるのもうなずけます。ここに、ちょうど同じ重さのアイテムがありました。


アース製薬の入浴剤「バスロマン」は、Wi-FiモデルのiPadと同じ680g。リアルな重さを体験したい人は、ドラッグストアで手に取ってみましょう

満員電車で立ったままこれを片手で使うのは、ちょっと危なそうです......。座っている人に落としでもしたら、困ったことになります。逆に座って使用できるのであれば、重さはあまり問題にはなりません。

ちなみに、Amazonの電子書籍リーダーの最上位版であるKindle DXは、iPadと同じ画面サイズ(9.7インチ)で重さは525g。画面サイズが小さい標準版のKindle 2は290gです。電子書籍リーダーのライバルとして比べられることの多いiPadとKindleですが、「気軽に持ち運べるか」という点では、Kindle側に軍配が上がりそうです。

これまでのアプリはそのまま使えるけど......

iPadは入手してすぐ、そのまま使うことはできません。iPhoneと同様に、まずはパソコンと同期してから使うことになります。

iPhoneをすでに使っている場合は、有料のアプリを含め、同じアプリをiPadでも使うことができます。iTunesを起動して同期すると、いつものアプリがiPadの画面に表示されます。ただし、アプリがiPadに対応していない場合、何とも悲しいことになってしまいます。


iPhoneの天気予報アプリの定番として知られる「ウェザーニュースタッチ」(無料。iTunes Storeへのリンク)。現時点ではiPad非対応なので、このようにポツンと表示されます

強制的にiPadの画面に合わせように拡大することもできますが、ディテールがぼやけてしまい、文字が読みづらくなってしまいます。これではあまり実用的とは言えないため、お気に入りのアプリがiPadに対応していない場合、対応するまで我慢する必要があります。

画面がきれい、サクサク速い、バッテリーがよく持つ!

重たかったり、対応アプリの登場を待たなければなかったりと、残念な点が最初に目に付いてしまいましたが、もちろん素晴らしい点もたくさんあります。

まず、画面の美しさは特筆すべきレベルです。Twitterでのカラムの一覧表示や、後述するPDFの表示などは、いったんiPadで体験してしまうと、iPhoneには戻れないように感じてしまいます。iPhoneと同じく、[ホーム]ボタンまたは[スリープ/スリープ解除]ボタンを押せば瞬時に起動するので、ノートパソコンのように起動を待たされることもありません。


iPadとiPhoneで[ホーム]画面を比較。こうして見ると、やはり「でかいiPod touch(iPhone)」です

iPhoneと比べて強化されたアップル独自のCPU「A4」の恩恵もあり、iPadの動作は機敏です。後で紹介するゲームなど処理の重たいアプリで、特にその威力を発揮します。

そしてバッテリーの持ち。カタログスペックで最長10時間(Wi-Fiでのインターネット使用やビデオ再生)とされる駆動時間の恩恵は、持ち歩いて使用していても実感することができました。

ただし、iPadをパソコンのUSBポートから充電する場合、一般的なUSBポート(多くのWindowsパソコンや古いMac)の出力レベルでは、iPadが電源オフかスリープ状態でないと、つまりディスプレイが消えている状態でないと充電できません。そのため、iPhoneに比べて充電できる時間が少なくなってしまうのですが、バッテリーの持ちに余裕があるため、そもそも出先で充電が必要になる場面はありませんでした。

友達や知人にiPadを渡すと、こうなる

打ち合わせの場でiPadを出すと、周りの人々から必ずと言ってよいほど「おっ!」という反応が返ってきます。注目度はバツグンで、喫茶店で使っていたら店員さんが「触らせてください」と声をかけてきたこともあります。

渡してみると、やはり「意外と重い」という反応が返ってきます。そして「画面がきれい」という反応の後に、[メール]や[カレンダー]といったアプリを起動してメールの一覧性や予定の週間表示を確認、回転させて縦・横での表示を試している間に[ホーム]ボタンを見失ってしまい、さらにくるくる回す......といった情景が繰り広げられます。

印象をヒアリングしてみて意外だったのは、「iPadをネットブックの代わりに使う」というイメージを持っている人が、周囲には少なかったことです。ネットブックは外出中にメールを打ったり、Webブラウズができたりすることがウリですが、それらはiPhoneなどのスマートフォンでも事足りる用途。iPadには、その役割はあまり求められていないのかもしれません。

それよりも、冒頭で説明した受動的な側面、つまり情報を受け取って楽しむエンターテインメントデバイスとしての期待が高いように感じました。

画面が大きいこともあり、YouTubeの映像を見せたり、PDFを表示できるアプリ「GoodReader」でマンガなどを見せたりすると、「見やすいね」「これなら読めるね」といった具合に好反応でした。やはりiPhoneでは得られない大きな画面による一覧性はインパクトがあります。


拙著「できるポケット+ iPhoneでGoogle活用術」のPDFを「GoodReader for iPad」(115円。iTunes Storeへのリンク)で表示。ページ全体を書籍(新書判)とほぼ同じサイズで見られます。「できるポケット+」シリーズの書籍をお持ちの場合は、無料でPDFをダウンロードできます

今後は書籍だけではなく、新聞の電子化もさらに進むと考えられます。見出しや記事の大きさによって情報の重要度が直感的に把握できるのは、紙の新聞の大きなメリットです。そのままの体裁で電子化が進んだ場合は、iPadの大きな画面との相性はよいと言えるでしょう。

ただし、iPadでWebブラウズをする際には大きな問題があります。ネットでも是非が議論されているように、Flashには対応していないのです。

バナー広告などは代替画像が用意されていることがほとんどなので、あまり気にはなりません。しかし、企業のキャンペーンサイトやゲームサイトなどでは、まったく何も表示されないことがあります。筆者は執筆のほかにもデジタルコンテンツのプロデュースを仕事としており、Flashを扱う機会も多々あるのですが、表示の確認にiPadを使えないのは残念なところです。

電子書籍リーダーとしての期待度はやはり高い

GoodReaderで実際にPDFを見てもらった人からは、「ページをめくる感覚がもう少しあるとうれしいね」という反応もありました。さまざまなファイル形式に対応するこのアプリは、「GodReader(神のリーダー)」ともたたえられるほどですが、ページ送りは通常のスクロールのような感覚です。

アメリカのiTunes Storeのアカウントがある場合は、アップルの電子書籍リーダーアプリ「iBooks」をすぐにインストールでき、こちらはページをめくる演出が施されています。しかし、iBooksの日本での提供は未定となっており、日本語の書籍もありません。自分で用意したファイルを表示することもできますが、ファイルの作成や転送には大変な手間がかかります。

【編集部注】日本のiTunes Storeでも、iBooksの提供が開始されました。5月26日時点では無料の書籍のみダウンロードできます。日本語の書籍は提供されていない模様です。

「手元のPDFをそのまま転送したい」「ページをめくる感覚で書籍を読んでみたい」という思いをかなえる方法はないものか......と考えていたところに、「i文庫HD」というアプリが登場。その不満は解消されました!


iPad対応の電子書籍リーダーアプリ「i文庫HD」(600円。iTunes Storeへのリンク)でページをめくる様子。iPhone用のアプリ「i文庫」(450円。iTunes Storeへのリンク)のiPad版ですが、機能は大きく強化されています

ページをめくる感覚はかなり再現されており、著作権が消滅した小説などを公開している「青空文庫」から書籍をダウンロードしたり、PDFなど自分で用意したファイルを表示したりできます。電車での移動中やちょっとしたすきま時間などに大活躍しそうです。

以下の写真の右側にある書籍は、筆者が今持ち歩いている書籍です。測ってみると800g以上の重さがありました。第一印象で感じたようにiPadは重いのですが、このような書籍が何十冊も入れられたら......と考えると、軽く感じられるようになるのは不思議です。


筆者が読んでいる書籍と、iPadを並べてみたところ。重さはもちろん、厚さ(iPadは13.4mm)もこれだけ違います

しかし、1色刷の読み物のような白地に黒い文字を画面に表示して長時間読み続けるには、輝度を調整できるとはいえ、iPadでは画面が明るすぎるようです。このような書籍では、紙のような視認性を特徴とする電子ペーパーを採用したKindleのほうが、軽さや目の疲れにくさで有利でしょう。

iPadでは、カラー表示などのリッチな表現が求められる雑誌、一覧性が重要な新聞、絵本のようなインタラクティブな仕掛けが施されたもので、その特徴が生きてくると言えるでしょう。

大画面+マルチタッチも生かせるゲーム機

では、iPadをゲームを楽しむデバイスとして見た場合はどうでしょう? iPadとiPhoneで、それぞれに対応した同じゲームを起動してみました。


上がiPad用の「Dark Quest HD」(800円。iTunes Storeへのリンク)、下がiPhone用の「Dark Quest」(600円/無料版あり。iTunes Storeへのリンク)。日本語にも対応したアクションRPGです

大きな画面のおかげでキャラクターのディテールがよく分かります。iPadのスピーカーではiPhoneよりも迫力のある音が出るため、ゲームをより楽しめるデバイスであることは間違いありません。

また、マルチタッチを生かした対戦ゲームができるのは、ほかのゲーム機にはない新しい魅力です。例えば、チェスならこのような感じです。


「WarChess」(無料。iTunes Storeへのリンク)はiPad版のみがリリースされているアプリ。チェス盤と同じように、2人がiPadを挟んで向かい合う形でプレイできます

iPadをテーブルの上にポンと置き、みんなで囲んでワイワイ楽しめる。ボードゲームのデジタル版がいろいろ出てくると、また随分時間を使ってしまうことになりそうです......。

なお、iPadはニンテンドーDSシリーズやPSP(プレイステーションポータブル)に比べても、画面が圧倒的に大きく、それでいてバッテリー駆動時間は同じくらいあります。iPadの最長10時間に対して、ニンテンドーDSiは高輝度で4~6時間前後、PSPは5時間前後の駆動時間(いずれもカタログスペック)です。

iPadは「あなたを映す鏡」

ここまで、iPadを主に電子書籍やゲームを楽しむためのデバイス=受動的な側面から考えてきました。このような向き合い方でとらえると、iPadはこれまでにない快適さやワクワク感を得られるデバイスであることがわかってきました。そして、その場に居合わせた人々と一緒に楽しむスタイルは、iPhoneでは得られなかった感動をもたらしてくれます。

その重さなど気になる点がいくつかあるものの、これまでにない体験を提供する「楽しい」デバイスであることは間違いありません。この部分を重視するのであれば、iPadの購入は当然選択肢に入ってくるはずです。

さらに仕事にも使えるのであれば、iPadは「死角のないデバイス」になりそうです。iPadの発売日に公開予定の後編では、能動的に情報を入力する仕事用ツールとしての実用度・生産性についてレポートします。

何でもできるかに見えるiPad。「iPadに何を期待するか?」は、あなたが「次世代のコンピューティングに何を期待するか」の裏返しでもあります。ただし残念ながら、仕事用ツールとしての期待には、意外な落とし穴が潜んでいたのですが......。

(後編は5月28日公開予定です)

おまけ:iPadと一緒に持ち歩くべきアイテム

iPadの画面には指紋がつきにくい加工がされていますが、それでもやはり、大勢の人が触ったあとは気になります。以下の写真のようにクロスを持ち歩いていれば、こまめにふいてあげることができます。iPadを発売日に入手したら、友達や職場の同僚から次々に「ちょっと触らせて」と頼まれることは確実です。iPadを予約済みの人は、クロスも用意しておきましょう!


眼鏡用のクロスでも問題ありませんし、家電量販店などではパソコンやテレビ用の少し大きなものも販売されています
まつもとあつしさんの
「できるポケット+ iPhoneでGoogle活用術」
出版記念セミナーのお知らせ

iPadの発売日でもある5月28日、秋葉原のデジタルハリウッド大学大学院にて、まつもとあつしさんの「できるポケット+ iPhoneでGoogle活用術」出版記念セミナーを実施します。詳細は、こちらをご参照ください。
28日は秋葉原でiPhone×Google×クラウド(×iPad?)トーク。「iPhoneでGoogle活用術」出版記念セミナーのお知らせ - できるネット+ 編集部ブログ