イー・モバイルが2009年11月18日に発売した「Pocket WiFi(D25HW)」は、3G携帯電話回線を利用した小型の無線LANルーターです。量販店のイー・モバイルの売り場に貼られた「革命起こる」というド派手なポスターや、販売員のアグレッシブな声かけが個人的には非常に記憶に焼き付いているのですが、Pocket WiFiのどのような点が「革命」なのでしょうか?


写真では机の上にPocket WiFiを置いていますが、実際にはポケットやカバンの中に入れたままで利用する場合が多いです


イー・モバイルは「革命」が大好き?

この「革命」というフレーズは、実のところやや食傷気味の感があります。イー・モバイルでは2007年の同社サービス開始時にも「モバイル通信にもブロードバンド革命を」というキャッチコピーを使っていました。また、2008年から同社のデータ通信カードとネットブックを組み合わせた「100円パソコン」が「革命的」と評されたこともあります。

今度のPocket WiFiは、どのような点に「革命」をもたらすデバイスなのでしょうか? 少なくとも執筆時点ではネットブック+Pocket WiFiが100円で売られている、ということはないようですが、某量販店にて、iPod touch(8GB)+Pocket WiFiが1000円というのを見てしまいました。うーん、これは新手の「革命」です......。


機能面での「革命」は多彩なデバイスを同時接続できること

販売方法はさておき、Pocket WiFiで新しく何ができるのか――機能面で革命的な点を見ていきましょう。

従来のデータ通信カードはパソコンに挿入して使用するのに対し、Pocket WiFiは無線LANルーターなので、iPod touchや各種ゲーム機など、無線LANに対応したパソコン以外のデバイスも接続できます。また同時に5台までのデバイスが接続可能が可能なため、ちょっとしたセミナーやオフ会のような場で、皆にネット環境を提供できます。

Windows Mobileスマートフォンを無線LANルーター化できる「WMWifiRouter」というソフトを紹介したこともありましたが、Pocket WiFiは無線LANルーター専用機なので、よりハイレベルな扱いやすさを期待したいところです。

細かい話としては、通信モードの違いもあります。WMWiRouterは「アドホックモード」という、一般的な無線LANルーターとは異なるモードでの動作となり、ゲーム機などが接続できませんでした。対して、Pocket WiFiは「インフラストラクチャモード」という一般的な無線LANルーターと同じ通信モードで動作します。


小さいけれど「ぎっしり感」のあるボディ

「Pocket」と付くように、Pocket WiFiは非常にコンパクトです。約99.5×46.6mm×14.1mmというのは、一般的な名刺入れよりも一回り小さい程度。そのかわりに約80gという重さは、「意外と重いな」という印象になると思います。

この80gの半分程度は、バッテリーが占めています。公称約4時間という長時間駆動を支えるるために必要な重さだと言えます。


画面表示がすぐ消える! 使いこなしには多少の慣れが必要

Pocket WiFiのつくりはごくシンプルで、本体には電源、WiFi/WPS(無線LAN)、CONNECT(イー・モバイルの3G回線への接続)の3つのボタンしか付いていません。そして購入直後の設定では、電源を入れて(電源ボタン約2秒押し)起動が完了すると、順次無線LANと3G回線が自動的にオンになり、利用できるようになります。


側面にある3つのボタン。左から電源オンオフ、WiFi/WPS、CONNECT

ここまでは非常に簡単なのですが、無線LANと3G回線の切断方法が、意外と分かりにくいです(単純に、利用後は電源ボタンを約2秒押しして電源を切ってしまうなら簡単でいいのですが)。

無線LANを切断するにはWiFi/WPSボタンを約2秒以上押します。3G回線を切断するにはCONNECTボタンを約5秒以上押して、3G回線の接続を手動制御する「マニュアルモード」に切り替え、さらに約2秒長押しする必要があります。

このように、1つのボタンに時間の違う長押しによる複数の機能が割り当てられているのと、画面表示が10秒ほどで自動的に消えてしまうのとで、操作に慣れないうちは「まごまごしているうちに画面が消えてしまった」という印象になりがちです。

そして、うっかりWiFi/WPSボタンを長押ししすぎる(約5秒以上)とWPS(無線LAN接続を簡単に行うための機能)が起動するなど、想定外の操作をしてしまい、混乱してしまうことがたびたびありました。状態を確認しながら、慎重な操作を心がけるようにした方がいいでしょう。なお、短く押した場合は画面表示がされるだけとなります。


接続の設定は簡単で、すぐに使える

パソコン等の無線LAN対応機器を購入直後の設定のPocket WiFiに接続するには、Pocket WiFiの無線LANをオンにした状態で機器側からPocket WiFiのSSID(アクセスポイント名)を選んで接続し、5ケタのWEPキーを入力するだけです。

認証方式はWEPによるOpen systemとShared keyの自動切り替えです。Pocket WiFiに興味を持っている方の多くはパソコンのほか、iPod touchやゲーム機など複数のデバイスを持ち歩く機会が多い方だと思いますが、いずれのデバイスからも簡単に設定が行えます(ただし、先述したような画面表示と操作の混乱にご注意を)。

「AOSSしか使ったことがない」という方には若干難しいかもしれませんが、公衆無線LANなどで、手動の無線LAN接続をした経験のある方なら、スムーズに接続設定を完了できるでしょう。


この快適さは革命的。WiFiオン→自動接続によって5秒前後で利用可能

少し慣れてしまえば、Pocket WiFiの利用は非常にスムーズになります。しばらくの試行錯誤の結果、私の利用スタイルは次のような形になりました。

電源は常に入れっぱなしで、3G回線の接続はオートモード(自動的に3G回線に接続する)にしておき、利用時に無線LANをオンにします。喫茶店では荷物を置いて、コーヒーとパソコンの配置を整えながらWiFi/WPSボタンを押す感じです。無線LANの起動直後にパソコンを起動すれば、自動的にPocket WiFiを探して接続し、「さて何から始めようかな......」と数秒ほど考えている間に自動ダイヤル接続も完了します。

これで、準備開始から実際に利用できる所要時間は、自分がスムーズに動ければ5秒前後といったところ。Pocket WiFiやパソコンよりも人間の動作の方が遅いので「接続を待つ」という時間はいっさいありません。

作業終了時にはPocket WiFiを何も操作する必要はなく、パソコン等を片付けて立ち去るだけです。実は、購入直後の設定では10分間通信がなければ自動的に無線LANと3G回線が切れるようになっているので、放っておいてもいいのです。

バッテリーを節約するためには、使用時に電源を入れ、終了時に電源を切るようにした方がいいです。しかし、電源を入れてから起動が完了するまでには20秒ほどかかります。バッテリー駆動時間については後編で詳しく触れますが、Pocket WiFiのバッテリーは約4時間持ちますから、よほどシビアに電源を節約したい場合以外は、多少の電源消費があっても上記のような使い方の方が快適でいいと思います。

こうした使い方で、どこでもすぐ作業に入ることができ、また退去時に時間を取られなくていいというのは、その数秒間を短縮する効果以上に、心理面での気持ちよさ・快適さがあります。先述のWMWiFiRouterと比べて圧倒的な扱いやすさで、これは、なかなかに革命的です。


さて始めるか、と、WiFi/WPSボタンを2秒ほど押して無線LANを起動します

パソコン(ここではMac)をスリープから回復させれば、自動的にPocket WiFiの無線LANネットワークに接続します


WPA/WPA2の設定やMACアドレスフィルタリングも可能

購入直後の設定のPocket WiFiは、手軽に設定できるのは便利であるものの、安心できるセキュリティとは言い難い状態です。

そこで、パソコンから設定ツールを利用することで、WPA/WPA2などの高度な暗号化や、MACアドレスによるフィルタリングなどの設定が可能です。また、購入直後はSSIDにPocket WiFiだと丸わかりのものが付けられているので、こちらも変更しておくのが望ましいです。また、無線LANと3G回線の自動切断の設定などもできます。


[設定]-[無線LAN設定]-[無線LAN基本設定]では、SSIDや無線LAN自動切断機能などを設定します

[設定]-[無線LAN設定]-[MACアドレスフィルタリング]設定で、特定の機器だけ接続を許可するように設定ができます

[設定]-[ファイアウォール設定]では、ポートマッピングやIPアドレスフィルタリングなどの設定が行えます


前半はここまで。モバイルデバイスは手狭な場所で、時間もない中での利用となる場合が多いため、すぐに使えて撤収も簡単である、という扱いやすさは非常に心強いです。後編では、実際に利用しながら駆動時間や通信速度などをチェックしていきます。