前編から続く)

Picasaにアップロードした画像が報告書になる

──Eye-Fi+Evernoteで書類や名刺を管理する方法は、Eye-Fiの持つ"即時性"がポイントになっていると感じました。この"即時性"をビジネスで生かすアイデアは、ほかにもありますか?

田中:即時性という意味では、報告資料は必ず写真を使って作成しますね。アメリカの本社へ人に会った報告をするときや、記者発表会の様子を伝えるときなども、Eye-Fiの転送先をPicasaウェブアルバムに設定しておけば、アップロード後のURLを送るだけで、報告書を書くまでもなく即座に共有できるのです。

これがかなり便利で、例えば記者発表会でEye-Fiがどのように取り上げられたかも、即座に細かく伝わります。特に重要なところは動画で撮れば、デモをやってくれたことまでわかりますし、補足はPicasaウェブアルバム上に英語でコメントを入れておきます。たったこれだけで、「日本で大きなイベントをやってくれた」ということが本社に伝わるわけです。


Picasaウェブアルバムのアルバム。記者発表会の様子を撮影していき、写真をアップロードしたアルバムのURLをメールすれば、即時性の高い報告が可能です

──「その日の最後に残業してコツコツ報告書を作る」というイメージとは遠いですし、まさにリアルタイムですね。

田中:それにメールの場合、添付できる画像は普通2~3枚ですよね。容量の問題があって何十枚も送れませんから。しかし、Picasaウェブアルバムなら全場面が時系列に並ぶので、発表会のスライドなどを順番に撮っておくだけで、特別な説明は不要です。アルバムを一般公開する設定にさえしなければ、セキュリティもメールで送るよりずっと安全になります。

だからこそ、Webサービスを使った報告が便利なわけです。写真共有のWebサービスは「みんなでこう楽しもう」というような、プライベートな用途をアピールされることが多いのですが、実はビジネスで報告書の代わりに使うと、すごいプレゼンテーションツールになるのです。

さらに、報告書として使う場合はひと工夫して、最後に自分のコメントを動画で入れて締めくくることもありますよ。

──自分でコメントをしゃべって動画のままアップロードすれば、それが報告のまとめになるわけですね。

田中:本社とは言葉の壁もありますが、これなら英文で長いレポートを書く手間もありませんし、写真だと細かいところまでとても伝わりやすいですね。今では写真なしで報告するのはありえません。

「百聞は一見にしかず」―次々に発見される新しい使い方

──写真共有サービスの活用では、やはり写真の情報量の多さがポイントになっているようですね。

田中:そうですね。言葉だとどうしても伝わらないけれど、写真ならすぐ伝わるということは少なくありません。例えば、最近いちばん面白かったのは「ダミーカード」の一件です。

日本の量販店の店頭には、「これをレジにお持ちください」と製品の代わりにフックにかけてあるタグがよくありますよね。あれをダミーカードというのですが、その作成にかかった経費を本社に計上したら、経理の女性に「ダミーカードとは何か」がどうしても伝わらなかったのです。アメリカにダミーカードはないので、イメージできないわけですね。

そこで、量販店の店頭でダミーカードが並ぶ様子を写真に撮らせてもらい、「店頭でこう並べてられている」とURLを送ったら、すぐに伝わりました。

──まさに「百聞は一見にしかず」ですね。

田中:Eye-Fi+Webサービスなら、「カードをカードリーダーにセットして写真を転送しなきゃ」とか、「メールで送るためにデータを圧縮しなきゃ」という手間がない。それに、準備していたことだけじゃなく、とっさに聞かれたときに出しやすいのも特長です。基本的にすべて転送しておけば、「あの日に撮ったはず......」ということを思い出すだけで、写真共有サービスをたどれますから。

──私自身もEye-Fiユーザーですが、聞けば聞くほど、知らない使い方があって驚きます。インターネット上でも、イノベーティブな方々がどんどん新しい使い方を発見しているようですね。

田中:そうですね。例えば、広告プランナーの川井拓也さんのWebサイト「ヒマナイヌ」は特にすごいです。

このサイトの「ヒマナイヌ写真部」では、Eye-Fiを使って写真ワークショップをやられています。参加者全員にEye-Fiが貸し出され、原宿の街を撮って回ったら、HOTSPOTの利用できる喫茶店で休憩するのです。すると、お茶を飲みながら会話している間に写真がアップロードされ、さらに更新はTwitterにポストされて、何もしていなくても自動的にWebで写真が共有されます。

また、最近はEye-Fi Share Videoをセットしたサンヨーのデジタルカメラ「Xacti」を2台用意して、撮影とYouTubeへのアップロードを交互に行うことで疑似生中継をする、いう使い方も提案されていました。


「ヒマナイヌ」の『Eye-Fiを使ったワークショップ"ヒマナイヌ写真部 原宿篇"のライブギャラリー』。Eye-Fiを利用し、原宿で撮影した写真をPicasaウェブアルバムでリアルタイムに公開した様子が紹介されています。ヒマナイヌ写真部では、8月16日にも同様のイベントが行われます(告知記事:すでに締め切られています

ヒマナイヌ

ジオタグはアップデートで提供。年間使用料もなるべく安く

──Eye-Fiの製品側では、今後どのようなアップデートが予定されているのでしょうか?

田中:画像に位置情報を付けられる「ジオタグ」の実施に向けて動いています。このサービスが一般的になると、ビジネスのレポートの価値がもっと上がると思うのです。例えば、お店の棚の配置を見る場合など、「写真」と「位置」が重要なレポートはたくさんありますよね。それをリアルタイムで「この店はこうなっていた」という情報につなげられるわけです。ジオタグ付きのEye-Fiは、ビジネスマンの必須ツールになると思いますよ。


ジオタグのオプションを有効にしたEye-Fiを使って、車内からインターバル撮影した様子。付近にある無線LANアクセスポイントから位置情報を取得するため、アクセスポイントの多い都市部では、かなり正確な位置情報を取得できます

──ジオタグ対応のカードは新製品として発売されるのですか?

田中:日本ではあまり製品の種類を増やさずに、機能をアップデートしていく方法を取る予定です。このジオタグも、機能的には現在のEye-Fi Share Videoにオプションで付加できますから、「年間いくら」という利用料でなるべく安く展開できるようにしようと準備しています。

──ビジネスにはもちろんですが、撮影場所のデータが自動的に付けば、旅行で撮影した写真もさらに面白くなりますね。

田中:以前、本社のCEO(最高経営責任者)が日本に来たときに、CEOが日本の量販店を回る様子を写真で撮って、Eye-FiからPicasaウェブアルバムへリアルタイムにアップロードして実況中継したことがあります。Picasaウェブアルバムに書き込まれたコメントを通してユーザーとコミュニケーションを取ることもでき、面白い体験でしたね。

──Eye-Fiとデジタルカメラの組み合わせは、プライベートでもビジネスでも使えると思いますが、田中さんご自身はどのように使い分けていますか?

田中:プライベート用とビジネス用でデジタルカメラを変えています。プライベートで撮るデジタルカメラにも、ビジネスで撮るデジタルカメラにもそれぞれEye-Fiを入れておき、Eye-Fiの設定画面でアップロード先を別々のところに設定しておけば、写真が混ざってしまうことはありません。

──カメラごと複数台で使い分けるということですね。

田中:いちばん好きなデジタルカメラはプライベートに、それとは別に仕事用、スキャン用と決めて使い分けています。意外と眠っているカメラはありますから、それを再利用すれば簡単ですよ。


 後編では、Eye-Fiの日本発売に至るまでのエピソードや、Eye-Fiの今後の展開について伺います。