高い柔軟性を持つサーバーを自社で運用

 企業のITシステムにおいてクラウドを導入する機能面でのメリットは、「必要に応じたリソース(サーバーの処理能力)を柔軟に運用できる」ことにあります。

 しかし、一方で「自社の業務が要求する仕様を、他社のサービスで本当に満たせるのか」という問題も生まれます。機能やセキュリティの面で要求を満たすサービスが見つからない場合もありますし、重要なデータを外部の企業に委託することへの心理的な抵抗感も、実際は無視するのが難しいでしょう。

 そこで注目を集めているのが「プライベートクラウド」です。プライベートクラウドは、「自社の要求を満たすサービスレベルで、かつ高い柔軟性のあるサーバーを自社内に用意する」という発想の元に生まれた概念で、簡単に言えば従来のサーバーとクラウドの「いいとこ取り」を狙うものです。

 これまでに紹介したGoogleやAmazon、セールスフォース・ドットコム、マイクロソフトの「Windows Azure」などは、プライベートクラウドに対して「パブリッククラウド」と呼ばれることがあります。プライベートクラウドのニーズが上記のような理由にある以上、パブリッククラウドよりも高い機能や安全性が求められているため、優れた製品・ソリューションの開発競争が進む熱い市場になってきています。

サービスレベルと運用コストとのバランスがカギ

 プライベートクラウドの核となるのは、仮想化されたサーバー群です。仮想化によって高い柔軟性を備えたサーバーを自社に置き、それらを自社のITシステム管理部門が管理し、他部署や関連会社からの要求に応じてサーバーの処理能力を提供します。

 例えば、サーバー50台分の処理能力が必要なとき、マシンを購入して設置場所を確保し、設定して運用して......という従来のような構築作業を行うのと、プライベートクラウドの中から50台分を調達するのとでは、かかる時間や費用が大幅に異なります。

 また、大規模なITシステムを必要とする企業では、パブリッククラウドを利用するより、自社にプライベートクラウドを構築したほうが、長期的にはコスト削減になるケースもあります。同時に、クラウド構築のノウハウを自社に蓄積することが、他社に対するアドバンテージになる場合もあるでしょう。

 一方で、サーバー数台の規模で十分な企業では、プライベートクラウドがかえってコストの増加を招き、過剰な投資となる可能性があります。また、要求されるサービスレベルが特殊なものでなければ、パブリッククラウドのほうが効率的に利用できる場合が多いでしょう。

 プライベートクラウドは重要なキーワードであり、注目に値するソリューションですが、あらゆる場合において最適なものだとは限らないことを覚えておきましょう。

●プライベートクラウドの概念図

[ヒント]グループ300社を抱える三菱東京UFJ銀行のプライベートクラウド

三菱金属、NTTデータ、沖電気などの大企業においても、サーバーの仮想化とプライベートクラウドの導入事例は多数あります。中でも、300社のグループ会社と国内外1,000ヵ所の拠点を抱える三菱東京UFJ銀行では、案件によってはパブリッククラウドを利用する一方で、自社グループが要求する高いサービスレベルに合わせたプライベートクラウドも構築し、グループ各社に提供しています。同グループではテスト環境やデスクトップ環境の仮想化、およびシンクライアント化(サーバーに情報を集約し、従業員が利用するデバイスをシンプルかつ何も情報が入っていない状態にすること)を推進しており、開発の効率化やセキュリティの向上につなげています。

[ヒント]「バーチャルプライベートクラウド」も登場

物理サーバーを企業の外部に置きながら、プラベートクラウドのように扱えることを売りにした「バーチャルプライベートクラウド」というサービスも登場しています。物理サーバーの中で独立した(ほかとは接続していない)仮想サーバーを立ち上げ、暗号化技術によってインターネットを専用回線のように扱えるネットワーク(VPN)で接続することにより、サービスを実現します。