サービスの時代を予見しSaaS型CRMを提供

 セールスフォースが提供するSalesforce CRMは、営業支援やマーケティング、カスタマーサポートなど、CRM全般に関わる機能を備えたサービスです。利用料金は、小規模組織向けの「Group Edition」(1ライセンスあたり月額2,000円)をはじめ、企業規模やカスタマイズ範囲に応じて4つのプランが用意されています。

 米salesforce.comのCEOであるマーク・ベニオフ氏の前職は、データベースソフトなどで知られる大手ソフトウェア企業、米Oracle Corporationの副社長です。ベニオフ氏は、ブラウザーからサーバーのデータベースを操作することで従来のソフトウェアと同じ仕事ができること、そしてその結果、顧客に大きな負担を強いるソフトウェアビジネスはなくなることを予見し、1999年にセールスフォースを設立しました。

 下図は、セールスフォースが提供するサービスの構成図です。Salesforce CRMの標準的なアプリケーションは「営業支援」〜「Content」で、そのほかにGoogleとの連携により提供される「Google Apps」、ユーザーやパートナーによって開発されたCRM以外のアプリケーション「AppExchange アプリケーション」があります。そして、全体の基盤となるプラットフォームとして、Force.comが存在します。

●Salesforce CRMのサービス構成図

豊富なカスタマイズ性で企業独自の仕様にも対応

 ひと口にCRMと言っても、顧客管理データベースの仕様や商談を進めるワークフローなどは、企業によって違います。そのような差異に細やかに対応するため、セールスフォースの基本サービスには高いカスタマイズ性が確保されています。

 カスタマイズは、ユーザー企業のSalesforce CRM管理者が行います。「取引先」や「商談」など、さまざまなデータ項目をカスタマイズすることで、自社で利用する形式に合わせられます。

 カスタマイズの実作業はブラウザーに表示されるメニューの操作のみで行えるので、特別な技術は必要としません。Excelなどで作成した顧客管理シートに項目を加えるのと大差ない感覚で、項目の追加や削除、必須項目かどうかの選択などが可能です。

「Force.com」による高い拡張性

 また、独自のアプリケーションが必要な場合には、Force.comで必要なアプリケーションを開発したり、AppExchangeからほかのユーザー企業が提供しているアプリケーションを導入したりすることもできます。

 AppExchangeで提供されているアプリケーションには、CRM以外の用途のものもあります。人事向け、財務向けといったカテゴリーもあり、無料または有料で、自分が利用しているSalesforce CRMに組み込んで利用できます。このような仕組みにより、CRMが必要ない部門・職種のユーザーでも、Salesforce CRMをベースに自分の用途に適したアプリケーションを利用できるようになっています。

 Force.comにはほかにも、ユーザー企業がパートナー企業や顧客向けにSalesforce CRMのインターフェースをカスタマイズするための「Visualforce」、アプリケーションの開発言語「ApexCode」など、さまざまな機能が用意されています。

●Salesforce CRMとその基盤技術Force.com

「ダッシュボード」などで情報を視覚的に分析

 Salesforce CRMには、情報を入力・編集する機能だけでなく、情報を閲覧する「ダッシュボード」などの機能も高いカスタマイズ性を持っています。サーバー上で情報が一元管理されるメリットを生かし、取引先ごと、商談ごと、キャンペーンごとなど、さまざまな切り口で情報を整理し、分析に役立てることができます。 また、情報はグラフなどで視覚化し、ダッシュボードで一覧することも可能です。グラフ上で気になる点があれば、すぐに情報を細かく分析し、問題の原因を突き止めることができます。

導入の決め手は「スピード」と「価格」

 ユーザー企業がSalesforce CRMの導入を決める理由には、大きく分けて2つあります。1つは利用可能になるまでのスピードの速さ、もう1つは価格の安さです。

 郵便局やみずほ情報総研の両社は、短期間で開発しなければならない案件が発生したとき、開発期間の短さを重視してSalesforce CRM(Force.com)に注目しました。性能・価格・安全性なども検討したうえで、導入を決定しています。

 また機能面では、自動的な機能強化によりユーザー企業に常に最新の機能が提供される点などが評価されています。

 セールスフォースが提供するSaaS+PaaSのソリューションは、ユーザー企業にとってさまざまな面でメリットがあるものです。しかし、一方で「セールスフォースに自社の顧客情報を預ける」ことが、既存のITシステムとは違った課題を生んでいる状況も知る必要があります。

[ヒント]セールスフォースがCRMに着目した理由

「CRM(Customer Relationship Management)」とは、顧客との関係を築くために必要な情報を管理することです。企業が必要とする顧客情報には、まだ取引のない見込み客から得意先まで、訪問や電話によるアプローチの反応、問い合わせの内容、過去の取引実績など、さまざまものがあります。これらを自社で管理・共有することで顧客との良好な関係構築に役立て、営業やコールセンターといったさまざまな部門・職種をサポートするのがCRMの役割です。セールスフォースがCRMに着目したのは、従来使われていたCRMソフトウェアが複雑で導入の失敗例も多く、満足度が低かったことが理由の1つ。また、グローバル展開を考えるうえで、CRMは人事や財務といった分野に比べ、国や地方ごとの習慣や法制度による差異がないことが、もう1つの理由となっています。

[ヒント]わずか2ヵ月強でアプリケーションを開発した郵便局のForce.com導入事例

郵政民営化によって2007年10月に誕生した郵便局株式会社は、早い段階から必要なITシステムの準備を進めてきました。しかし、民営化まで1年を切ったところで、新たに「お客さまの声管理システム」と、顧客より取得した個人情報利用同意書を管理する「顧客管理システム」が必要となります。そこで入札の結果、セールスフォースのサービスの導入を決定。2つのシステムはいずれもForce.com上で動作するアプリケーションとして開発し、もともとForce.com に用意されていた基本的な機能を活用できた「お客さまの声管理システム」は、わずか2ヵ月強で完成しています。セキュリティについても郵便局が求める条件をクリアしており、郵便局では利用開始前に米国のデータセンターでの検証作業も行っています。現在は郵便局の全国2万4,000拠点、6万5,000人のユーザーがこれらのシステムを利用しています。短期間での構築を無理なくこなせるのは、PaaSの強みです。

[ヒント]1つのシステムを多くのユーザーでシェアする「マルチテナント」のメリット

セールスフォースのサービスには、「マルチテナント」であるという特長もあります。旧来のASPと呼ばれていたサービスには、大企業のユーザーには最新のサーバーとシステムを貸し出す一方で、中小企業のユーザーには古いサーバーとシステムというように、同じサービスでも内容に差がつく場合がありました。セールスフォースではこのようなことはなく、大企業も中小企業もForce.comという1つの巨大なシステムを共有し、同じ内容のサービスを受けられます。ASPを「1つの建物に1人の入居者」(=シングルテナント)と考えると、セールスフォースは「1つの建物に複数人の入居者」(=マルチテナント)のようなイメージです。この仕組みにより、例えばセキュリティに厳しい企業のためにシステムを強化すれば、すべてのユーザー企業がそのメリットを享受できます。また、利用者数や利用するサービスの内容に応じて柔軟に拡張・縮小でき、利用した分だけの料金を支払うシステムになっています。

●マルチテナントの仕組み