進化したサーバーは「雲」のイメージになる

 レッスン1で紹介したようなネットワークコンピューティングは、実際のところ、すでに多くの企業で実践されています。イントラネットで運用されているグループウェアや勤怠管理システムなども、ネットワークコンピューティングの一種です。

 そのときに利用されるサーバーは、大抵の場合はオフィスのサーバー室にある1台であったり、データセンターにある一群であったりと、「これ」と実体を特定できるマシンです。しかし、クラウドコンピューティングでは、これらのサーバーはどこにあるとも知れない、どのような実体かもよくわからないし知る必要もない、「雲」のような存在へと変化します。

●「雲」のようなサーバーとデータをやりとりする

大量のサーバーが「超巨大な1台」として機能

 「雲」、すなわち「クラウド」は、インターネットの概念を図にしたとき、「世界中のサーバーからデータを取り出す」というイメージが雲からデータが出てくるように表現されることが多かったため名付けられたとされています。

 検索大手であるGoogleは、世界中のデータセンターに大量のサーバーを保有しています。そのため、Web検索などでGoogleを利用するとき、私たちはまさに「世界中のあちこちにあるサーバーにアクセスしてデータを取り出す」ことをしています。

 しかし、私たちの目の前に検索結果が表示されたとき、それがアメリカのサーバーからやってきたのか、それともインドのサーバーか、といったことを意識することはありません。無数のサーバーたちが連携している状態は、私たちユーザーにとっては「超巨大な1台」のサーバーとして見えるからです。

ネットワークコンピューティングが直面する問題

 なぜ、そのように超巨大なサーバーが必要なのでしょうか? それは、ネットワークコンピューティングのサーバーが抱えるいくつかの問題を解決するためです。

 例えば、ある企業がWebサーバー上で会員を集めるサービスを提供しているとします。会員は順調に増え、数千人規模までは問題なく成長しました。しかし、さらに増えて数万人の単位になるとサーバーへの負荷が大きくなり、それまでと同じサーバーやシステムでは正常なサービスを維持できなくなってきます。

 ところが、サーバーの増設やシステムの拡張には、高度な技術と多大な資金(追加投資)が必要です。これらに失敗すればそのまま事業が失敗になってしまうおそれもあるため、企業にとって非常に難しい決断になりがちです。

 一方で、高価なサーバーを導入したもののリソース(CPUやメモリなどのコンピュータ資源)が余ってしまったり、そもそもITに明るいスタッフがおらず、原始的な業務システムしか利用できなかったりする企業もあるでしょう。

「超巨大なサーバー」を「切り売り」する

 このような問題に対し、ある解決策が生まれました。世界規模の「超巨大な1台」と見なすことができるサーバー群の処理能力を、あなたのビジネスに合わせて「切り売り」します――。これがクラウドコンピューティングの発想です。

 企業がサーバーを導入するとき、これまでは「CPUは何にする?」「メモリは何GB?」「ハードディスクの容量は?」などと最初に決める必要がありました。なぜなら、サーバーはケースの中にそれらを収めた1台のマシンだったからです。

 ところが、クラウドコンピューティングではサーバーの概念が大きく変わります。無限と見なせる処理能力(CPUやメモリ)と記憶容量(ハードディスク)から必要な分だけを、さらに基本的なアプリケーションもセットで利用できるようになるのです。

 ネットワークコンピューティングで起こるさまざまな問題は、この「超巨大な1台」と見なせるサーバーの「切り売り」によって、容易かつ柔軟に解決できる環境が整い始めています。

●「無限の処理能力」をビジネスに合わせて提供

[ヒント]レンタルサーバーとクラウドコンピューティングの違い

1台のサーバーを複数のユーザーでシェアするレンタルサーバーサービスは今までにもありましたが、1台のサーバー分の能力が上限で、利用できるのは小規模なニーズに限られています。しかし、クラウドコンピューティングでは無数のサーバー、しかも最適なパフォーマンスが得られるよう高度な技術によって設定されたものが得られます。また、小規模なニーズに対しても従来のレンタルサーバーより低価格で、同等以上の機能を利用できるようになります。

[ヒント]サーバーの「切り売り」は電力会社のビジネスモデルに似ている

『クラウド化する世界』(翔泳社)の著者ニコラス・G・カー氏は、クラウドコンピューティングによるサーバーの概念の変化を、現在のような電力供給網による発電施設の変化に見立てています。かつて電力を必要とする工場は、自前の発電施設を所有するのが当たり前でした。100kWhの発電施設を持つ工場は、100kWhをきっちり使い切る仕事をしないと、発電施設への投資を有効活用できません。また、工場を拡大して130kWh分の電力が必要になったとき、発電施設を増設するかどうかは悩ましい経営課題になります。ところが、電力会社から電気を「切り売り」してもらえば、常に使った分だけ料金を支払えばよく、業務を拡大する際にも簡単に増やせます。カー氏はコンピューティングのリソースも、企業にとって「必要なだけ買って使う」類のものになるとしています。

[ヒント]サーバーを「雲」にするカギは「仮想化」技術

無数のサーバーを、超巨大な1台のサーバーとして機能させる技術としてよく知られるれるのは、処理を次々と無数にあるサーバーマシンに振り分ける「る「ロードバランシング(負荷分散)」です。このほかに「クラウド」と共に注目注目度の上がっているサーバー関連のキーワードとして、サーバーのメンテナンス性や運用効率を上げる「仮想化」があります。仮想化については第5章で詳しく紹介します。

[ヒント]クラウドは災害にも強い

世界中にサーバーがあると、局地的な災害(特定の地域を襲う大地震など)があってもほかの拠点のサーバーが無事であれば、サービスを供給し続けられるれるというメリットがあります。世界中での利用を想定したサービスの場合、これは重要な要素になります。